沈黙の艦隊と亡国のイージス:違いと共通点を解説

邦画

2023年9月に公開される映画「沈黙の艦隊」ですが、海上自衛隊のパニック映画としては2005年に公開された「亡国のイージス」があります。この両者の関係がわかりにくいという話もあるので比較して解説いたします。

「沈黙の艦隊」と「亡国のイージス」の紹介

両者とも日米安全保障条約体制下での海上自衛隊を中心とした物語ですが、設定は大きく違っています。詳細に説明するとネタバレになるのでさわりの部分から紹介しておきます。

沈黙の艦隊はかわぐちかいじによる1988年から1996年まで連載された漫画で、1997年にはアニメ化されています。内容は日本と米国が密かに開発した日本向け原子力潜水艦シーバット、日本名ではやまとが航海訓練中に、米国第七艦隊から離脱して、独自行動をとることになります。

亡国のイージスは1999年に刊行された福井晴敏の小説で、2005年年に映画化されています。ミサイル護衛艦「いそかぜ」がイージス艦として改修を受けたのち訓練中に航海訓練中に工作員に乗っ取られるという設定です。

登場キャラクターとユニークな要素の違い

登場キャラクターは多くなってしまいますが、ごく少数に絞って紹介します。

沈黙の艦隊のキャラクター

海江田四郎は主人公で、海上自衛隊のディーゼル潜水艦「やまなみ」の艦長で、海上自衛隊において将来を嘱望された人材すが、沈没事故で殉職してしまいます。しかしこれは日米両政府の偽装事故で、これにより原子力潜水艦アメリカ名シーバット、日本名やまとの艦長に就任します。

深町洋は海江田四郎の同期で、同様にディーゼル潜水艦「たつなみ」の艦長です。海江田に対して対抗心を持っていましたが、海江田の事故死を不審に思い、その正体を追い求めていきます。

亡国のイージスのキャラクター

仙石恒史は主人公でミサイル護衛艦「いそかぜ」の先任伍長です。いそかぜのすべてのことを知っているという設定となっています。上官からも部下からも信頼の厚い存在です。

宮津弘隆はミサイル護衛艦「いそかぜ」の副長です。原作では艦長となっていましたが、映画では設定が変わります。海上自衛隊の中では人望が厚く優秀な部下を育てている実績があります。しかしながら、同じく海上自衛隊に入った息子の死をきっかけに自衛隊の体制に疑問を持つことになり、事件の首謀者となっていきます。

 軍事技術の描写の違い:原子力潜水艦とイージス護衛艦

どちらも海上自衛隊ですが、対象とする船舶が違いますので、かなりの違いが生じてきてしまいます。

沈黙の艦隊は主体が原子力潜水艦やまとです。これは日米の技術を結集した原子力潜水艦ですので、潜航能力も含めてすべての能力が通常兵器を上回っています。潜水艦対潜水艦の戦闘形態がどんなものなのかを味わうには絶好の材料となっています。しかも、やまとの搭載兵器は不明とされていることから、核戦闘能力も含めて考えていく必要があります。

アメリカ第七艦隊から離脱したやまとはアメリカ海軍の潜水艦隊と戦闘状態になります。さらにその後大きな展開が待っています。

これに比べて亡国のイージスはイージス護衛艦ですので巡航ミサイル、ハープーンなどを搭載しています。具体的な戦闘場面はおおくはありませんが、いそかぜの行動を阻止しようとした、護衛艦「うらかぜ」と戦闘状態になります。

戦術と戦略の対比:日米安全保障体制へのアプローチ

沈黙の艦隊と亡国のイージスで大きく違うのはこの点です。どちらも日米安全保障条約体制下で起こった事件を想定していますが、そのアプローチは相当異なっています。

沈黙の艦隊は日米安全保障条約体制下で起こる事件ですが、原子力潜水艦の米国第七艦隊からの離脱、同時に、海上自衛隊からの離脱という衝撃的な展開となります。すなわち、現体制から出発して、この安保体制からどのような秩序を求めていくかという壮大なスケールがあります。そして離脱した原子力潜水艦やまとと日本政府との関係、米国政府との関係が展開していきます。

亡国のイージスはあくまでも日米安全保障体制の中で終始しています。米国による日本の主権侵害、日本国が守るべきものは何なのかなど考えさせるテーマが紹介されていますが、あくまでも現体制を超えるものではないというのがこの映画の限界となっています。

沈黙の艦隊と亡国のイージス:違いと共通点を解説のまとめ

間もなく実写版が公開される沈黙の艦隊と亡国のイージスの違いと共通点を解説してきました。あまり詳細に説明するとネタバレになってしまいますので、いずれもさわりとなっていますが、日米安全保障体制を考えさせられる良い機会となりますので、ぜひ見ていただきたいと思います。沈黙の艦隊はそういう意味では反響も大きく国会でも取り上げられたこともあります。

沈黙の艦隊のアニメ版と亡国のイージスの映画版はu-nextでも公開されていますので、事前に見ていくと参考になります。