【完全版】1970年『トラ・トラ・トラ!』:日米開戦の歴史的背景と技術的挑戦を徹底解説

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皆様、こんにちは。今回は、第二次世界大戦の開戦を告げた真珠湾攻撃を、類を見ない客観性とスケールで描いた1970年の日米合作映画『トラ・トラ・トラ!』を、その歴史的・軍事的な深層を含めて徹底的に掘り下げます。

🎬 作品の独自性と製作背景

本作は、日本の20世紀フォックスとアメリカの大映が共同製作し、日米それぞれが自国のパートを制作しました。監督も日米で分かれ、日本側は舛田利雄深作欣二、アメリカ側はリチャード・フライシャーが務めました。この異例の体制により、日米双方の視点が公平に描かれ、単なる戦争映画ではない、ドキュメンタリータッチのリアリティを実現しています。

🐅 映画の表題「トラ・トラ・トラ!」のエピソード

* 「トラ・トラ・トラ」の意味

「トラ・トラ・トラ!」(Tora! Tora! Tora!)は、日本海軍が真珠湾攻撃の「奇襲が成功したこと」を、機動部隊の本隊へ打電するために用いられた暗号です。この言葉は、単に「攻撃せよ」を意味するものではありません。

  • 「ト」:突撃セヨ (Totsugeki seyo)
  • 「ラ」:雷撃 (Raigeki) の頭文字
  • 「トラ」: 後の解釈で「奇襲成功」を意味するようになったとも言われますが、本来は「ト」と「ラ」を組み合わせて、作戦が完全に発動し、奇襲の条件を満たしたことを報せるための暗号符です。これを三度繰り返すことで、その確実性を強調しました。

映画では、攻撃隊総指揮官の淵田美津雄大佐(演:田村高廣)が真珠湾上空からこの電文を打電するシーンが、奇襲成功の確信と、歴史が動いた瞬間として、非常に劇的に描かれています。この短い暗号こそが、映画の持つ緊張感と歴史的な意義を象徴するタイトルとなっています。

📜 日米開戦に至る歴史的背景

1941年、アメリカによる石油の輸出停止(経済制裁)は、資源に乏しい日本にとって致命的な圧力となりました。交渉による打開を模索したものの、アメリカが強硬な姿勢(ハル・ノートなど)を崩さなかったため、日本は資源確保のために東南アジアへの進出を決意。そのために、背後の脅威であるアメリカ太平洋艦隊の無力化が不可欠となり、真珠湾攻撃の計画が浮上しました。

* 宣戦布告の義務と遅延

国際法上、戦争開始前の宣戦布告は義務でした。日本側は攻撃の30分前に通告文書を手渡す計画でしたが、ワシントンの日本大使館員による文書作成・清書作業の遅れにより、通告は攻撃開始後にずれ込みました。この致命的な遅延は、日本が国際的な非難を受ける「だまし討ち」となる決定打となり、映画でも重要なドラマとして描かれています。

🎯 真珠湾攻撃の困難な挑戦と技術革新

真珠湾は天然の要塞でしたが、山本長官はあえてそこを奇襲することで、米軍の慢心を突こうと考えました。その実現のため、日本は軍事技術的な困難を克服しました。

* 浅い水深への魚雷対策

真珠湾の水深は約12メートルと浅く、通常の航空魚雷では海底に激突してしまいます。日本海軍は、魚雷に木製の安定翼(補助翼)を取り付けるという画期的な改良を秘密裏に行い、浅い水深での使用を可能にしました。

* 爆弾の転用と訓練

戦艦の分厚い装甲を貫通させるため、陸軍の99式徹甲弾を航空爆弾に転用。さらに、真珠湾と似た水深を持つ鹿児島湾で、極秘の集中訓練を実施し、奇襲の成功率を極限まで高めました。

👥 主要な登場人物と俳優

映画は、日米双方の指導者たちの葛藤や判断ミスを深く掘り下げています。

* 山本五十六(やまもと いそろく) – 演:山村聰(やまむら そう)

【人物】 攻撃の立案者でありながら、対米戦の無謀さを最も理解していた悲劇的な司令官。

【俳優】 山村聰。小津安二郎作品などで知られる名優。静かな演技で、山本長官の持つ作戦への確信と懸念という複雑な内面を表現しました。

* ハズバンド・E・キンメル – 演:マーティン・バルサム

【人物】 太平洋艦隊司令長官。ワシントンからの断片的な警告を軽視し、情報の誤認や楽観主義から、万全の防御体制を敷かずに奇襲を許してしまいました。

【俳優】 マーティン・バルサム。アカデミー助演男優賞受賞者。情報の波に飲み込まれ、状況を制御できなくなる提督の焦燥感をリアルに演じています。

* ウォルター・C・ショート – 演:ジェイソン・ロバーズ

【人物】 ハワイ駐留陸軍司令官。奇襲対策ではなく、破壊工作対策を優先し、航空機を格納庫に密集させ、かえって攻撃目標を集中させてしまう失策を犯しました。

【俳優】 ジェイソン・ロバーズ。アカデミー賞を連続受賞した名優。危機意識の薄いハワイの空気感の中で、事態の深刻さに気づかない司令官の姿を描き出しました。

🔥 映画の特撮と再現度

本作の特撮は、現代でも高い評価を受けています。その秘密は、実機レプリカの使用にあります。撮影のために、日本の零戦や九七式艦上攻撃機が大量に製作され、ミニチュアではなく本物の航空機による迫力の空撮シーンを実現しました。緻密な考証に基づいた艦船の配置や攻撃ルートの再現、そして戦艦アリゾナの炎上シーンは、当時の特撮技術の集大成です。

🌟 結論:歴史の複雑さを学ぶ作品

『トラ・トラ・トラ!』は、歴史の複雑なメカニズムを、感情的な煽り抜きに描いた貴重な作品です。日本側の緻密な計画と技術革新、そしてアメリカ側の慢心と情報戦の失敗という、二つの大きな流れが交錯し、大惨事が引き起こされる瞬間を圧倒的なスケールで描き切っています。戦争の開始を多角的に理解する上で、今なお最高の教材であり続ける歴史超大作です。